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負けることを気にしていたら勝てないとか、闘いこそが偉大なことだという姿を見せつけるためです。 映画俳優のJ・Wがガンになり、最後まで病と闘った姿勢にアメリカ人は拍手喝采を送りました。
日本人には、なぜそんなにも賞賛されるか理解できませんが、彼らにとっては、闘いこそがすべてなのです。 一方、モンスーン地帯の宗教ともいえる仏教ではこうなるかというと、まったく逆人間の側にあるのは「老」「病」「死」の原理で、それを自然が生かしてくれていると考えています。
人間は自然の力によって生かされているのです。 「闘病の思想」は間違っています。
なぜなら、病気の原因は、細菌やウイルスによるものを除けば、人間の外部にあるのではなく、内部にありまずから、闘病すれば自分を傷つけるということになるからです。 さらにいえば、人間は自然によって生かされている存在なのですから、人間が自然と闘うのはおかしいのです。
今の医療には、細菌などによる病気と慢性的な生活慣病的な病気はまったく違うという認識がありません。 病気の原因を突きとめ、それを排除することで治ると思い込んでいます。
まさに「闘病の思想」をそのまま受け継いでいます。 しかし、現代医療がこれだけ進歩しても、病気は治らないどころか、患者の数だけがどんどん増えています。

病気に対する考え方を根本から再認識しなければ、みんな病人にされ、医療地獄に陥ってしまいます。 医者も製薬会社も患者までもが、病気を撲滅するために闘おうとすればするほど医療費だけが増大し、病人が増え続ける現実をどう受けとめたらいいのでしょうか。
最近の新聞などで、公立病院の治療費未収入の金額が、一病院あたり三OOO万円を超えていることが報道されました。 治療を受けてもお金を払えない人が増えているということです。
格差が拡大し、アメリカのように、お金持ちしか治療を受けることができないようになるかもしれません。 行政の側は医療費を補助していますから、患者がお金を払えないとなると、それだけ税金の負担が重くなり、いろいろな徴収手段を講じているようですが、医療現場の混乱は避けられそうもありません。
なぜ、こうしたことが起こるのでしょうか。 私の考えでは、その原因は医療側が病気に対する恐怖を異常に煽りながら、病人を虜にする一方、一般庶民は病気を恐れるあまり、その思惑にはまっているからです。
医療ミスもよく報道されます。 医療も患者側も病気という言葉にあまりにも翻弄されていないでしょうか。
はたして病気は人間にとって敵なのでしょうか。 病気というものを考えるうえで、ギリシャの歴史家であるへロドトスが書いた『歴史』という本が参考になります。
この本には、エジプトとパピロニアの医療について書かれた箇所があります。 まず、エジプトについては、「医療が専門別に分化し、それぞれの医者は一種類の病気だけを扱い、いくつもの病気を扱うことはない。
したがって、いたるところ医者だらけという有様で、眼の医者、頭の医者、歯の医者、腹部の医者、患部不明の医者、等々がある。 そして全体を診断する医者はいない」(M訳I文庫版)とあります。
一方、パピロニアについては、「この国には医者というものがいないので、病人は家に置かず、広場に連れていく。 通行人は自分がその病人と同じような病気を患ったことがあるか、または他人の患ったのを見たことがあるかすると、病人の傍らに行って、病気について知恵を授ける。

あるいは自分が知っている他の回復者の試みた療法を病人に教え、試みることを勧めるのである。 そして、だれでも病人にどういう病気かを尋ねずに、知らぬ顔をして通りすぎてはならぬことになっている」と記されています。
歴史学者のうちにはパピロニアにも医者がいたと言う人がいますが、病気というものを考えるとき、大きな示唆を与えているような気がします。 今の日本の医療は完全にエジプト型になっています。
しかし、昔はパピロニア型でした。 医者というのは病気を治す人ではなく、病気の症状をしっかり知っている人だと考えていたに違いありません。
症状をよく知っているのは、多くの人生体験をしてきたお年寄りです。 お年寄りたちは、少なくとも病気を局所的なものではないと思っていましたから、顔色などを伺って、こんなときはこうしたほうがいい、あるいは、こうなったらそんなことはしていけないということをアドバイスできました。
まさにお年寄りたちは、医者の役割を果たしていたことになりますし、に恐れるということはなかったに違いありません。 人間の体は医療にもてあそばれている現代の医療はあまりにもエジプト型になっています。
そこでは病気が分化し、それぞれに専門医がいますが、専門化の怖いところは、「私の専門外です」と言えば、いつも責任回避ができることです。 それは、数年前注目を集めた耐震偽装事件でもわかります。

建物を建てるときも、設計と施工が分離され、設計も意匠設計、構造計算、設備設計、施工設計などに分化し、施工段階では、さらに細かく、設備、内装、左官、大工などに分かれ、何か不具合が生じると、お五いに責任を押しつけ合っています。 そういえば、役所のたらい回しもあります。
問い合わせをすると、よく「OO部暑が管轄しています」というのが何回か繰り返され、ようやくたどり着くと「よくわかりません」などと、言われることがあります。 笑い話のようですが、胃潰蕩かもしれないと診断されて胃カメラを飲まされた人がいました。
その後、医者の治療を受け、幸い病気は治りましたが、カメラを飲まされたとき、食道に傷がついてしまいましたが、その医者に、「食道のことは知らない」と冷たく言われたそうです。 結局、エジプト型では、人間を頭や心臓、胃や腸、手足といった各パーツの組み合わせと見ています。
まるで、自動車のように、エンジンが悪ければエンジンだけを直し、ブレーキ系統なら、その部分だけを取り替えればいいと考えています。 病気の治療にも同じようなことがあります。
悪くなっているところを発見し、摘出したり修繕したりすればいいといったスタンスです。 しかし、人間は部分のたんなる寄せ集めではありません。
人工心臓や人工虹門などはすでにありますし、人工頭脳といった言葉もあるようですから、こんなに細分化されてしまったら、人間はまるでロボットになってしまいます。 人間とは何かという医学原論や医療哲学がないから、かけがえのない生命体をいたずらにもてあそぶようになってしまうのです。
今こそ、病気とは何なのかということをしっかりと認識し、感染症による病気とそうではない病気をしっかり分け、闘っていい病気と関わらないほうがいい病気を区別しなければなりません。 そのうえで、病気に対して無駄な抵抗はしないという考え方が広がらないと、医療も人間も共倒れになってしまうでしょう。
科学という字の左側は稲で、右側が升です。 米を升で測るということですから、科学の本質は分科、つまり、分けるということにあります。

扱える範囲に対象物を分けていって、その部分について調べていこうという考え方です。 それに対して、哲学は全体学ということができますが、日本の場合、医療の世界がエジプト型になっていて、全体をみる医者がいません。
哲学がないということです。

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